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芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています 第4話

last update 最終更新日: 2025-03-10 19:55:28

引っ越し当日のお昼すぎ。新幹線で東京まで来て、そこから電車に揺られて数十分。私は、地元の最寄り駅に到着した。

「うわあ、懐かしい~!」

大きなスーツケースを引きながら歩いていると、幼い頃に藍とよく一緒に遊んだ近所の公園の前を通りかかった。

大きな桜の木も、ブランコも滑り台も。何もかも、全てあの頃のまま。

あの赤いブランコに、藍とよく乗ったなあ。あの鉄棒で、藍と一緒に逆上がりの練習をしたこともあった。ほんと懐かしすぎる。

足を止めしばらく昔を懐かしんだあと、私は再び歩き始めた。

公園を過ぎると、あと数分で久住家に着くため、私の胸のドキドキは最高潮に。

お母さんは福岡へ引っ越したあとも、藍のお母さんと連絡を取り合っていたみたいだけど。

私が会うのは引っ越して以来、実に5年ぶりだから。いきなり一人で向かうなんて、いくら何でも緊張するよ……。

しかも私は小学生の頃、勇気を出して告白してくれた藍を振ったんだから、一体どんな顔をして会えばいいんだろう。

ばくんばくんと、大きくなる胸の鼓動を感じながら歩いていると、あっという間に目的地に到着した。

ツートンカラーの外壁と、片流れ屋根が印象的な外観のごく一般的な二階建て一軒家。お庭には、色とりどりの花がたくさん咲いている。

──ピンポーン。

私が緊張しながらインターフォンを押すと、中から明るい声が聞こえてきた。

「もしかして、萌果ちゃん!?会わないうちに、随分と大人になってぇ」

ドアが開いた先にいたのは、綺麗な女の人……藍のお母さんの橙子(とうこ)さんだった。

私が小学生だった頃から見た目がほとんど変わらず、今も若々しくてキレイ。

「待ってたのよ。さあ、入ってちょうだい」

橙子さんは私の荷物を持つと、私の手を引いて玄関へと招き入れる。

最後に来た5年前と変わらず、家の中は甘いフローラルの良い香りがする。この香りを嗅ぐと、藍の家に来たんだって改めて実感する。

靴を脱いで通されたのは、広いリビング。観葉植物や、オシャレなインテリアが並んでいる。

「荷物の段ボールはもう着いてるから、安心してね。先に、お部屋に運んでおいたから」

「はっ、はい。あの、今日からお世話になります」

私は、橙子さんにペコッと頭を下げた。

「やだ、萌果ちゃん。久しぶりに会ったからって、そんなに畏まらないで?今日からしばらくは、ここが我が家だと思ってくつろいでね」

「はい。ありがとうございます!」

それから橙子さんに、部屋を案内してもらった。

私が使わせてもらうのは、1階のリビングの斜め向かいにある6畳ほどの和室。そこで着替えて荷解きをしたりしていたら、あっという間に夕方になってしまった。

「萌果ちゃん、大丈夫そう?」

橙子さんが、私の様子を見に来てくれた。

「はい。ほぼほぼ、終わりました」

「そう。それなら良かったわ。何かあったら、遠慮なく言ってね?」

にこっと、微笑んでくれる橙子さん。

「もうすぐ、お夕飯の時間だから。ダイニングに来てちょうだい」

「あっ、あの……そういえば、藍は?」

私は、ずっと気になっていたことを橙子さんに思い切って尋ねてみた。

今日は日曜日だけど、私がこの家に来てから藍の姿をまだ一度も見ていない。

「ああ。あの子なら、2階の部屋で寝てるわ。今日は、朝早くから撮影があって。萌果ちゃんが来る少し前に帰ってきてから、グッスリで」

「そうだったんですね」

藍、自分の部屋にいるんだ。

「あっ、そうだわ。萌果ちゃん、良かったら今から藍のことを起こしてきてくれない?」

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